落ち着け。

おちつけ。

オチツケ。

何度自分に言い聞かせたかわからない。

何から考えたらいいのかなんて、もうわからない。

頭の中は?マークでいっぱい。

 

わかんないよ。

わかるわけない。

 

君は一体、何がしたいの?

 

 

目の前には教室のドア。
そう、昨日と同じ。
変わったことといえば、僕の気持ちがさらに鬱々としていることだろうか。

だけどね、何となくわかるんだ。
予想は出来ているんだ。

ドアを開けて、教室の中を見渡すこともせず一直線に自分の席につくと
僕の顔を見るなりいつもの人懐っこい笑顔を向けながら
近づいてきて

「おっはよー、不二」

と何事もなかったかのように朝の挨拶をする、その声の主。

やっぱりね・・・

何で?
どうしてあんなことしておいて
君はそんなに平然としていられるわけ?
別に気まずくなりたいわけじゃない。
だけどさ、正直ここまでさらっと何事もなかったかのように
振舞われると、さすがに僕もイラっとくるんだよね。

おかしいでしょ?
あんなことされて普通にできるわけないでしょ?
冗談じゃないよ。

「おはよ。」

そっけない返事だけを返して、目も合わせずにさっさと
自分の席についてわざと音を立てて鞄を机に置いて
教科書やらノートを取り出して机のなかに無造作に突っ込んだ。

その様子を見て、英二はおどけたように笑って大げさに肩をすくめて
見せながら席についた。
別に直視してたわけじゃない。
だけど、視界の端に映った、その人を馬鹿にしたような態度が余計に
僕の癇にさわった。

 

嫌でもその背中を視界に入れざる負えないこの席順に本気で
腹を立て始めた僕の苛立ちなどお構いなしに、チャイムと共に
運悪く、移動教室が一つもない一日が始まる。

 

窓際の席は、好きだ。
特にこの季節は日差しも柔らかくて、ぽかぽかと気持ちがいい。
あったかくて、つい眠りそうになってしまうくらいに。
無駄に空なんて眺めて、ただ雲の流れるのを見ているだけでも
何だか心が晴れ晴れする気がした。
ふと、グラウンドに目をやると、どこかのクラスが体育の授業らしく
ゾロゾロと人が集まり始めている。

いいなぁ、こんな天気のいい日は、教室の中に篭っているより
外で運動していたい。
おまけに1限目は僕の嫌いな日本史。
別に苦手なわけじゃない。
ただ、とかくこういう社会系の科目は先生がつまらない。
ただ淡々と年号と出来事を読み上げるだけならば別に自分一人で
さっさと暗記してしまった方がよっぽど早い、とか思ってしまう。

今日は気分的にも一段と授業なんか聞く気にはなれなくて、
大きなあくびを一つこぼして完全にグラウンドの方を向いて頬杖を
つきながら、左手でシャーペンをくるくると回していた。

空いた窓の隙間から、心地よい風と一緒に騒がしい外の声が
入り込んでくる。
さっきの体育のクラスだ。
どうやらサッカーの授業らしく、気づけば試合が始まっていた。
何気なく目線でボールの動きを追っていると、ふいに何だか見慣れた
姿が視界に映った。

・・・手塚?

目を凝らしてよく見てみると、やっぱり手塚だった。
微妙に後ろ姿しか見えないけれど、他の人と比べて背が一回り高いし、
そして何より隙あらばいつも目で追っていたその背中を遠目とは言え
間違えるはずはないという妙な自信があった。
思いがけない所で手塚を発見したという喜びに、自然と口元が緩む。
心持ち窓の方に身を乗り出すようにして、すっかり鑑賞体制に入っていた。

へぇ・・・足、速いなぁ。
走り方、綺麗。
ドリブルも上手い。
あ、囲まれた、あ、あ、抜いた。
すごい、3人も抜いた。
いけ、いけ!あとちょっと!

すっかり夢中で見入っていた。
無意識に握りこんでた手のひらにはじんわり汗がにじんでいる。

テニス以外のスポーツやってるのなんか見たの初めてかも。
何か、意外。
でも、やっぱり運動神経いいんだ、すごいな・・・。

高い背、低い声、綺麗なテニス、運動能力。

僕の欲しいものばかり持ってる。
羨ましい。
だから、惹かれるのかな。

それとも・・・


「・・・じ、不二・・・不二!!」

「・・・っはいっ!!」

突然、耳に飛び込んできた、自分を呼ぶ声。
その声の方を見れば、先生が眉を吊り上げて僕の名を連呼していた。
まわりを見渡せばクラスメイト達もみんな、 僕を見ている。
一体、いつから呼ばれていたんだろう。

「不二、聞いていたのか?
教科書、今言ったところから、読んでみろ。」

・・・全然聞いてませんでした。

やばい、どこから読むのか全然わかんない。
適当に開いたページを見つめてうつむいていると、
英二が後ろ手に、トントンと指先で僕の机を叩いて
ちぎったノートの端を差し出した。

『134ページ、3行目』

こんな時に助けを借りるのは何だか気が進まなかったけれど
今は後先考えてる場合じゃない。
慌ててそのページを開いて読み始めた。
先生は多少目を細めてジロリと僕を見ていたけれど、
特に何も言われることは無くその場をやりすごせた。

・・・不本意だ。
だけど、仕方ない。
これは僕が悪い。自業自得だ。

走り書きで『ありがとう』とだけ書いてノートの端をちぎり
無言でトン、と英二の肩をつついてそれを渡した。
英二は振り返ると何も言わずにただ、いつものように
にっと笑って見せてすぐにまた前を向いた。

どうして僕は手塚のことになると、こうも周りが見えなくなって
しまうんんだろう・・・。

小さくため息をついて、またちらりとグラウンドの方を見ると
もう手塚のチームの試合は終わったらしく、その姿は見当たらなかった。

英二のおかげでここ二日間ほど手塚のことを考えている
余裕が無くなっていたけれど、一度思い出してしまうと
とたんに頭の中は手塚一色だ。
会いたいなぁ・・・そりゃ放課後になれば部活で会えるけどさ。
二人きりでゆっくり会ったりとか、できればいいのに。

叶いそうで叶わぬ夢を思い浮かべて、後半の授業はぽかぽかとした
日差しを浴びながらうつらうつらと意識半分だった。

授業の終わりを告げるチャイムの響き渡る中、いつものように
英二が振り向き様に僕に何かを話しかけてくる前に、そそくさと
教室から逃げ出した。

とにかく一人でいたい。
そしてゆっくり考えたい。
何を?と聞かれるとそれすらまだよくわからないけれど、とにかく
これ以上英二といてまたあれこれ引っ掻き回されたら、ホントにパンクして
しまいそうだ。
しかし、誰にも会わずに済んで、ゆっくり落ち着ける場所が思いつかったとはいえ
トイレの個室でこうして便器に腰掛けて考え込んでいる自分の姿は傍から見れば
結構間抜け・・・だろうな。
2限目の始まりのチャイムを何となく耳に入れながら、もう教室に戻る
気力もすっかり失せてしまっていた。

このまま、サボっちゃおうかな・・・

そう思いながらとりあえずどうするにしてもこのままここにいるのも
何だな、と思いふらふらと個室を出て、
何気なく手洗い場の鏡に映った自分と向き合えば、この上な
く冴えない顔をしていて何だかものすごくがっかりする。
思わず大きくため息を漏らした瞬間、何か首の右下に
赤い、痣のようなものがあるのに気づいた。

・・・?

何だろうと、少し身を乗り出して、それをなぞってみても
痛みは無い。
しかし、次の瞬間一つだけ思い当たる事があってはっとした。

「どう?綺麗についてるっしょ?」

それとほぼ同じ瞬間に、後ろから声をかけられて
思わず体がビクリと跳ね上がった。
振り返るといつの間に入ってきたのだろう、ドアの前に立った英二がやけに
誇らしげな顔で笑いながら近づいてくる。
とっさにその痕を右手で覆い隠して、眉をしかめながら僕はまた鏡の方に向き直った。

「・・・何、その嬉しそうな顔。」

言いながら鏡越しにその顔を思い切り睨み付けた。

「いやー、思ったより綺麗についてるもんだから何か嬉しくて
さぁ、だって初めてつけたんだよ。上出来じゃない?」

「・・・他に言うこと無いわけ?」

「他に?」

あくまでもとぼける様子の英二に、今日何度目かもわからない
ため息を漏らした。

「あのさ、何のつもりか知らないけど、からかうのもたいがいにしないと
いい加減本気で怒るよ?」

一度認識してしまった首の痕が、昨日のことを妙に鮮明に思い出させて、
鏡越しでも恥ずかしくて、目線を伏せて言いながらそのまま英二の方を見ないように
ドアへ向かって歩きだした。
もう、一秒だってこの場に二人きりなんて耐えられない。

「からかってるわけじゃないけどね。」

「え?」

一言ぽつりとそう言うと、英二の顔から笑顔が消えた。
同時に横をすり抜けようとした僕の腕を掴んですごい勢いで
トイレの奥側にぐいぐいとひっぱって行く。

「え、ちょっ・・・英二、なに?」

思いのほかその力が強くて、思うように振り払えなかった。
そのまま奥の個室に突き飛ばすように押し込まれて、軽く
背中をぶつけ、小さなうめきが漏れた。

「・・・っ。」

「ごめん、ちょっと乱暴すぎたかな?」

「ちょっとじゃないよ!何なのさ、もう離し・・・」

言いかけてその言葉は唇ごと塞がれた。

「んーっ・・・ん・・・。」

痛いぐらいにきつく抱き込まれて、身動きが取れないまま、
突然の激しい口付けに苦しくて、唇をほんの少し開くと
その間を割って英二の舌が入りこんでくる。
それはうねるように 僕の咥内をあちこち舐め回しては
舌にからみつき、そして時折歯を立てて軽く噛み付く。

何とか逃れようとじたばた手足をばたつかせてみたけれど、
まったくびくともしない英二に、もう呼吸をするので精一杯だった。


「・・・はぁ・・・っ。」


やっと唇が離れる頃には英二の腕にもたれかかるようにして
息を荒げるばかりで。
そうしている間にも英二の手が僕のシャツのボタンを一つ、二つ
とはずしていく。

「や・・・っ英二!!ちょっとホントにやめて・・・ここどこだと・・・」

そう言いかけた瞬間、突然英二の左手が僕の唇を覆い塞いだ。
びっくりしてもがこうとすると、入り口の方から誰かの話し声が聞こえてきた。
一瞬、体が凍りつく。
英二は唇の前で人差し指を立てて静かにするよう僕に促した。
言われなくたって騒ぎやしないよ、いっそこの隙に逃げ出してやりたい
くらいだけど、こんなトイレの個室に男二人で入ってるとこ発見されても
何て言っていいやらわからないもの。


「あー、マジめんどくせぇ、このままサボっちまいてぇなぁ。」

「そりゃヤバイだろ、次澤田だろ?あいつうるせぇじゃん。」

「つっても、もうとっくに授業始まっちまってるしなぁ・・・。」


どうやら二人組みらしいけれど、早く行ってくれないかな。
正直この状況は非常に辛い。
今だ英二とは密着状態だし、下手に動いて気づかれたらアウトだ。
すっかり困り果ててふと、英二の方を見ると、至近距離で目が合った。
思い切りしかめっ面で睨み付けると英二は一瞬苦笑して、それから
何かを思いついたような悪い顔でにんまりと笑った。
左手で僕の唇を塞いだまま、再び僕のシャツのボタンに手をかける。
驚いてその手を阻もうとした瞬間、シャツの上から僕の乳首を思いっきり
つねった。

「・・・っ!!」

ほとんど痛みに近いその突然の刺激に思わず小さく声が漏れた。
狭い個室内なので、英二の手をすり抜けてまるでその声が響き渡ってしまったかの
ような錯覚を覚えた。

自然と動悸が高まる。

外に注意を払ってみると、どうやら気づかれてはいないようだ。
ほっと胸を撫でおろしたのもつかの間、いつの間にかシャツの前は全部はだけられていて
さっきまで僕の唇を覆っていた英二の左手は僕の腰のあたりをいやらしくなでまわし、
右手の人差し指が、今度は軽く掠めるような動きで僕の乳首をいじりだした。

その微妙な感覚に全身鳥肌が立つような感覚に襲われ、この状況で
一体何を考えているのかと、力いっぱい英二の腕をつかんで爪を立てた
けれど、そんなことはものともせずに、ぺろりと舌を出して笑って見せると
そのまままた口付けてきた。
軽く、触れるだけの口付けの後、徐々にそれは頬、首筋、鎖骨へと降りていって
そっと、唇で挟むように左の乳首に触れた。
そのまま舌先でそれを転がされると、自分でも驚くぐらい敏感にそこから
快感を拾い上げてしまい、体中の力が抜けていく。
瞳を固く閉じて、漏れそうになる声を両手で必死に押さえ込んだ。

息が、苦しい。

外からは相変わらず話し声が聞こえていて、今だそこに人がいることを
示していた。

怖い。
怖い。
怖い。

苦しい。
やめて。

思うように抵抗もできないまま、ただ漠然とした恐怖心だけが
どんどん心の中にたまっていく。
カチャカチャと小さな音を立てて、英二が僕のベルトをはずし、その手が中に
進入してくる。
止める間もなく、僕のペニスを捕らえるとやんわりと揉み込みながら、
ぐりぐりと先端を押しつぶすように円を描いて刺激する。
あまりにも直接的な快感に、足ががくがくと震えだし、自分で立っている
ことすら危うくて、英二の肩をぎゅっと掴んで耐えた。

すっかり固さを増したそこを擦られながら、そっと耳たぶを
甘噛みされて、その舌が奥まで入り込んだ瞬間、

「あ・・・っ。」

こらえきれず大きな声が漏れてしまった。
慌てて強く唇を塞いでみても、もう、遅い。


「おい、今なんか聞こえなかったか?」

「え、何が?」

「今、奥の方でなんか聞こえたような気がしたんだよ。」


気づかれた・・・
どうしよう、どうしよう。
心臓はばくばくと音を立てて高鳴り、何か冷や汗のようなものが滲みでて来る
感覚だった。
足音が、近づいてくる。

「ぜってぇ、今なんか聞こえてきたんだって。」

「気のせいじゃねぇの?だって個室どれも鍵、かかってねーじゃん。」


その言葉を聞いた瞬間、さらに血の気の引く思いがした。
慌てて鍵の方に目をやれば、確かに鍵がかかっていない。
こんな状態で見つかったら・・・

ぐるぐるとあれこれ考えていると、さらに信じられないことが起こった。
英二が再び僕のペニスを扱き始めたのだ。

「・・・っ。」

声にこそならなかったけれど、やめてと叫びだしそうな勢い
で、僕は英二の顔を思い切り睨み付けた。
だけど、そんなことはおかまいなしといった風にその手の動きはさらに
速さを増す。
すぐそこに人がいるのに、一体何を考えているのか、本当に理解
できなかったけれど、下半身から込み上げる快感に、徐々に思考すらも
遮られて、あと一歩気を許してしまったら、この快楽の波にそのまま押し流されてしまい
そうな、そんな危うさすらあった。

いくらこらえたところで呼吸は自然と上がり、音にならない程度に
荒げた息を、奪い取るように、まるで噛み付くように英二の唇が重なる。

ペニスの先端からはすでにだらしなく半透明の先走りが
とろとろと零れ落ちていた。

気持ちいい。
気持ちいい。

どうしよう・・・

いつ、この扉が開けられて、この姿を見られてしまうかも
わからないのに、ちらちらと時折ドアの方に目をやって、それを
気にかけながら怯えつつも、すっかりこの快感に支配されて、
夢中だった。


「やっぱ気のせいじゃねーの?何か気味わりぃし、そろそろ行こうぜ。」

「あぁ、そうだな・・・。」


ふいにそんな会話が聞こえてきて、そのまま足音は遠ざかり、
ドアのパタリと閉まる音と共に、室内に静寂が訪れた。
緊張の糸がちぎれるようにほっと一呼吸すると、それまで多少なりとも
遠慮がちに動いていた英二の手が一気に激しさを増した。

「・・・っや・・あ、ん・・・っ!」

それまでこらえてきた声も、人がいなくなった安心感からか自然と留まることまく
漏れ始める。
すでに、限界に近いペニスはもう、とろけてしまいそうなくらいの快感に
包まれて、ひくひくと小さく痙攣していた。
瞳にはうっすらと、何なのかはわからないけれど涙が滲んでいた。

「不二、もうイっちゃいそ?壁の方向いてくれる?」

「・・・?」

言われるままに英二に背を向けて、壁の方を向いた。
もう、抵抗しようとすら思わない。すっかり快楽の虜になっていた。
ふと、お尻に何か固いものが当たる感覚がして、そういえば
英二はどうするんだろう・・・と頭の片隅をよぎったけれど、
あまり考えている余裕も無かった。
後ろから抱き込まれて、耳たぶに舌を這わせながら右の乳首を
くりくりと弄られて、唇からはひっきりなしに喘ぎの混じった熱い
吐息が漏れた。

「・・・っ、あ・・・っ。」

「不二、気持ちいい?」

「ん・・・やだ・・・」

「ねぇ、答えてよ、気持ちい?」

あと一歩でいけそうという時、意地悪く
そう言いながら、刺激を与えすぎないように
ゆるゆると軽く上下に扱き、時折一番敏感な
ふくらみの部分を弄りながら耳元で英二が囁く。

「・・・っやめ・・・て、英二・・・」

「言うまで、イかせてあげないよ?」

「・・・っ」

恥ずかしさに顔から火が出るような思いだったけれど、
これ以上耐えることはできそうもない。

「え、いじ・・・気持ち、い・・・だから、もう・・・」

涙を浮かべて哀願した。

「ん。いい子だね。」

そっと、頭を撫でながら優しくこめかみのあたりに口付けて、
英二は、一気に開放へ向けてその手の動きを早めた。

「う・・っ、あん・・・あ、あぁ・・・っ!!」

先端から、勢いよく白濁の液体を吐き出すと、
飛び散ったそれは目の前の壁の数箇所を汚した。
ぼやけた視界でそれ見ながら、僕は力なくその場に
座りこんだ。

それまで溜め込んでいたのだろうか、途端に涙が溢れ出て、
どうしようもなく悲しい気持ちになった。
僕は溢れ出る涙を何度も拭いながら、嗚咽を漏らして泣いた。

 

 

Next

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送